近年、うつ病や認知症の患者さんの増加に伴い精神科の病院やクリニックが増加傾向にあります。このような背景があることから精神科の門前薬局も増加しており、就職を希望する方も増えてきているようです。

そこで、精神科の門前薬局の特徴と薬剤師求人選びのポイントをまとめてみました。

精神科の門前薬局の特徴

処方内容が複雑な患者さんが多め

精神科の処方は他科の処方に比べて用法が複雑だったり、処方される薬剤数が多かったりすることもあります。さらに、誤服用防止のために医師から一包化の指示がされていたり、錠剤に粉砕指示が入っていたり、複数の散剤を計量・混合したりすることも少なくありません。

そのため、調剤や監査業務に非常に神経を使います。

錠剤に関しては客観的・視覚的に監査を行うことができますが、粉砕された錠剤や混合した散剤については視覚的に監査を行うことが難しいこともあるので、調剤も監査も慎重に行う必要があります。

コミュニケーションスキルが必要とされることが多い

精神科を受診する患者さんはデリケートな方が多く、初対面だと全く話をしてくれない方もいらっしゃいます。
薬剤の形状やPTP包装が変更になっただけで「薬が全然効かなくなった」と訴える方もいらっしゃいます。
また、調子が変わったり薬剤の変更があったりすると、繰り返し来局したり電話をかけてきたりして納得するまで延々と話をされる患者さんもいらっしゃいます。

こういった患者さん達の不安を受け止め、解消するためのコミュニケーションスキルが時には必要となってきます。

疾患や薬剤に関する豊富な知識が必要

精神科を受診する方の病状を客観的に評価することは難しく、例えば糖尿病や高血圧のように明確な数値目標があるわけではありません。そのため「ゴール」がはっきりせず、疾患に関する知識が不足していると服薬指導に困ることがあります。

また多剤併用例が多く、さらに他科受診している患者さんも多いため、薬剤の相互作用や禁忌に関する知識も必要となります。

さらに、患者さんの家族や介護に関わっているヘルパーさんから「気づかれないようにこっそり薬を飲ませる方法」や「食事に混ぜて薬を飲ませる方法」などについて相談を受ける場合もあります。

このようなことから、他科に比べてより一層疾患や薬剤に関する知識が必要であるといえます。

薬局内の在庫の種類が多め

精神科では個々の患者さんの症状にきめ細かく対応した処方がなされるため、精神科の門前薬局では在庫している薬剤の種類が多めになることが多いです。
規格違いや剤形違いはもちろん、名称が異なるだけの併売品をあえて在庫している場合もあります。しかも、向精神薬などの規制医薬品が多く、あつかいに非常に気を遣うことも多いです。

薬剤の在庫の種類が多いと、慣れるまではピッキングミスなどをしやすいので大きなプレッシャーを感じるかもしれません。

しかし、調剤過誤防止策を設けている薬局も多くあります。例えば、毎日2回、午前の診察受付終了後と午後の診察終了後に出庫のあった薬剤を棚卸している薬局もあります。また最近は、バーコードを利用した調剤過誤防止システムを導入している店舗も多数あります。

精神科の門前薬局の薬剤師求人選びのポイント

未経験者を受け入れる体制がしっかりしているかチェック

精神科の門前薬局では、調剤や監査業務、服薬指導に時間がかかることが多いです。そのため、求人情報で「未経験者可」となっていても、それに惑わされず処方せん枚数に対して常勤の薬剤師が十分に配置されている薬局を選ぶのが無難です。他科の門前薬局でも薬剤師一人あたりの一日の処方せん枚数が30枚を超えると余裕がなくなってくるので、注意が必要です。

また、調剤ミス・調剤過誤防止策を設けている薬局の方が、調剤薬局未経験者にとっては働きやすいでしょう。特に精神科の門前薬局では、あつかっている薬剤の種類が多く、規制医薬品の在庫も多い傾向があります。面接時に、可能ならば調剤過誤防止策について確認すると良いと思います。

勤務体制に無理はないかも確認

勤務時間や休日などについてもしっかり確認しましょう。

一日あたりの勤務時間が長いと疲労がたまり、調剤ミス・調剤過誤を起こしやすくなります。また、個人医院の門前薬局では休日日数が少ないこともあるので、自分や家族のライフパターンに合っていないと働き続けることがつらくなってきます。

精神科の門前薬局での勤務は、他科の門前薬局勤務と比較して精神的に疲労するといわれています。そういったことも加味して、自分にとって無理のない勤務体制であるかどうかをチェックしましょう。

患者さんとの人間関係にも配慮が必要

精神科では非常にデリケートな疾患をあつかうので、患者さんとの人間関係にも配慮が必要です。
私の知人は自宅近くの精神科の門前薬局に就職したのですが、ご近所の方や子どもの同級生などが来局するために業務がやりづらく、約3ヶ月で他店舗への異動を希望しました。

知り合いが来局しても仕事だと割り切ってしまえばいいのですが、なかなか難しいものです。
したがって、自宅近くの薬局に就職を希望する場合には、患者さんとの人間関係も考慮する必要があるかもしれません。

まとめ

精神疾患などで医療機関にかかっている患者さんの数は年々増加していて、少し古いデータですが平成23年には患者数が320万人となっています。これに加え、未受診の患者さんが相当数いるといわれているので、今後も精神科及びその門前薬局の需要は伸びることが予想されます。また、精神科での治療は薬物療法が中心となるため、精神科の門前薬局での薬剤師業務は非常にやりがいがあるものであるといえます。

一方で、精神科の処方や患者さんを苦手とする薬剤師も少なくはないので、精神科の門前病院での勤務経験があると一目置かれる存在になれるかもしれません。

他科の門前薬局に比べてコミュニケーションスキルや疾患・薬剤に関する知識が要求されることが多いので、就職にあたってハードルが高いと感じるかもしれませんが、精神科の門前薬局での勤務経験は決して無駄になりません。勤務体制や人間関係を考慮して、良い転職をしてくださいね。