薬剤師が1日に扱える処方せん枚数は原則として40枚ですが、眼科・耳鼻咽喉科などの処方せんは例外的に60枚まで扱うことができます。

これだけをみると、耳鼻科などの処方は比較的簡単で薬剤師の負担が少ないように思われます。しかし、実際はどうなのでしょうか?

そこでここでは、耳鼻咽喉科の門前薬局の特徴と、就職を希望される方のために求人選びのポイントをまとめてみました。

耳鼻咽喉科の門前薬局の特徴

処方せん枚数の季節変動が大きい

耳鼻咽喉科の処方せん発行枚数は、季節変動が大きいことが知られています。

夏は処方せん枚数が比較的少ないのですが、風邪症状の患者さんがみられ始める秋頃から徐々に処方せん枚数が増え始めます。

そして、風邪の患者さんと花粉症の患者さんが爆発的に増える冬から春先までは、夏の倍以上の処方せんが発行されることもあります。

この忙しさがゴールデンウィークちょっと前くらいまで続くことがあります。

処方せん枚数の多い時期は処方内容も調剤の負担の大きいものが多く、風邪症状であれば鎮咳剤・抗アレルギー剤・去痰剤・解熱剤・トローチ・外用の気管支拡張剤などが一度に処方されることもあります。

花粉症の場合には、抗アレルギー剤・ステロイド内用剤・気管支拡張剤・点鼻薬・点眼薬などが一度に処方されることもあります。患者さんの年令によっては水剤や散剤が処方されることもありますし、一包化の指示が入っていることもあります。兄弟・家族で受診される方も多いので、1人の方が処方せんを4~5人分持ち込むこともあります。

最近は医療機関からファックスで処方せんを送ってもらえることが多いですが、冬はファックスを送ってもらっても業務が追いつかず、患者さんをお待たせしてしまうことも少なくありません。

患者さんの年齢層が広い

耳鼻咽喉科の患者さんの年齢層は幅広く、赤ちゃんから高齢の方まで様々な方が受診されます。

幼児や小児では併用薬や飲み間違いに注意

お子さんは風邪症状や中耳炎、花粉症の患者さんが多いです。また、小児科を受診されているケースも多いので、飲み合わせの確認が欠かせません。

兄弟で受診している場合には、同じ薬が体重に応じて量だけを変えて処方されることもあるので、調剤・監査時に薬を間違えないように注意が必要です。

散剤の場合は分包紙に患者さんの名前を印字することが多いですが、印字システムがない場合には兄弟間で薬を間違えることがないように分包紙にマーカーで色をつけることもあります。

よく似た色の散剤が複数処方されている場合にも、分包紙に色をつけることがあります。

服薬指導時には、体重の確認はもちろんのこと、兄弟間での薬の飲み間違いが起きないようにしっかり注意を喚起するようにします。

経過の長い患者さんには寄り添って

大人の患者さんの場合は、風邪症状や花粉症の他、めまいや難聴などで長期間受診されている方も多いです。

高齢の患者さんの場合は他科を受診している場合も多いので、併用薬の確認が必要です。

めまいや難聴で受診されている患者さんの場合、経過が長いために治療内容に不安を感じてコンプライアンス不良となっていたり、いわゆるドクターショッピングをしている方もいます。

このような患者さんに対しては、コンプライアンス不良やドクターショッピングを責めるのではなく、話をしっかり聞いて不安を受け止め、治療に寄り添うことが必要となってきます。

在庫の種類が少ないことが多い

一般的に、耳鼻咽喉科は他科と比べて採用薬剤数が少ないことが多いといわれています。また処方もパターンが決まっていることが多いといわれています。

そのため、調剤薬局での勤務経験がない人でも比較的就職しやすい職場であると思われます。

一方で、様々な抗生剤や抗アレルギー剤を扱うので、この範囲だけでも良いので事前に勉強しておくと就職後の業務に役立つかもしれません。

耳鼻咽喉科の門前薬局の求人選びのポイント

未経験者の受け入れ体制に注意

就職時には、調剤薬局未経験者の受け入れ体制の有無を確認するのは必須です。

耳鼻咽喉科の門前薬局は未経験者でも比較的働きやすい職場ではありますが、就職時期によっては薬局自体に余裕がなく、いきなり服薬指導を行うことになる可能性も否定できません。

耳鼻咽喉科の門前薬局は冬に人手が不足しがちなので夏の終わりごろから求人が増えることが多く、また条件の良い求人も多くみられます。

しかし待遇面だけではなく、働きやすい環境が準備されているかどうかもしっかり見極めましょう。

重要なのは冬の処方せん枚数と勤務体制

耳鼻咽喉科の門前薬局に就職する際には、冬の処方せん枚数や勤務体制、残業時間もチェックが必要です。

耳鼻咽喉科の処方せんは薬剤師一人あたり1日60枚まで扱うことができますが、冬に1日60枚もの処方せんを一人でさばくことはできません。

経営者側はギリギリの人数で運営したいという思いがあるでしょうけど、余裕のない薬局へ就職すると身体的にも精神的にも疲弊しますし、調剤過誤も発生しやすくなります。

後悔しないためにも、冬の処方せん枚数と常勤の薬剤師数をしっかり確認しましょう。

また、勤務体制にも注意が必要です。薬局によっては、夏のみ完全週休二日制をとり冬は完全週休二日制ではないところもあります。

もちろん勤務時間は週40時間以内になるようにシフトが組まれると思いますが、勤務体制が想定外のものであると家族とのスケジュール調整がうまくいかなくなることもあります。

また、残業時間もチェックが必要です。冬は医療機関の診察時間も長引きがちですし、これに合わせて薬局の受付時間が延長されることも多いです。ピーク時にどの程度残業が発生するかも確認しておきましょう。

転職時期にも注意

どうしても耳鼻咽喉科の門前薬局に就職したいのならば、薬局に余裕のあるゴールデンウィーク明けや夏に就職するのがおすすめです。

この時期に就職すれば余裕を持って業務を覚えることができますし、よく使われる薬剤や疾患の勉強もしっかりすることができます。

もっともこの時期は求人があまりない可能性があります。気になる職場があるのならば、求人情報をこまめにチェックする必要があるかもしれません。

まとめ

耳鼻咽喉科の門前薬局は調剤薬局未経験者でも比較的就職しやすい良い職場といえます。

様々な抗生剤や抗アレルギー剤の知識も得られますし、小児の患者さんが多めなので散剤や水剤の調剤スキルもしっかり身につけることができます。

一方で冬から春にかけて非常に忙しくなる職場なので、覚悟は必要です。もっとも、ひと冬超えることができればそれが自信につながり、どんな職場でもやっていく度胸がつくでしょう。

耳鼻咽喉科の門前薬局で得られるスキルや経験は非常に価値の高いものです。興味のある案件があったら、思い切って申し込んでみましょう。