調剤は薬剤師の専権事項である

薬剤師法第19条

薬剤師法の第19条では、薬剤師以外は販売・授与目的で調剤をしてはならないと定められています。これは調剤が薬剤師の専権事項であることを示しているものです。調剤業務は薬剤師が業務独占をしているようなものですが、この「調剤」という概念について見ていきましょう。

調剤の概念は、薬剤を量って分けて混ぜるという「薬剤の調製」のことを指していました。ただ、現在の調剤の概念というのは、とても広く解釈されています。論者によって異なる解釈がされており、一定の概念として調剤を語るのはとても難しいことです。

最も広義的な意味で解釈するならば、薬剤の管理や処方監査・先述した薬剤の調整・服薬指導に薬剤の交付やモニタリングが全て「調剤」にあたるようです。モニタリングというのは、薬剤が適正に使用されているのかどうかを見たり、有効性を評価したり、副作用の有無などについて情報を収集することとなっています。

これらは薬剤師に情報提供義務があることから薬剤師の専権事項である「調剤」に含むのではないかと言われているものです。ただ、必ずしもそれら全てが「調剤」と言えるわけではありません。

薬剤師の専権事項なのに、医師も調剤できる?

調剤は薬剤師法で薬剤師以外はしてはならないとしており、薬剤師の専権事項ですが、日本では医師も調剤を行うことがあります。これは医師法や歯科医師法との矛盾点です。日本には法律がたくさんあるため、互いに矛盾した事項がある場合も珍しくはありません。

この医師法の矛盾点というのが、医師や歯科医師に認められている調剤業務の例外事項です。

薬剤師の専権事項と法律の矛盾

医薬分業の際、医師会が例外を多数設定した

医師法で定められているところの調剤業務の例外事項なのですが、これを説明するには医薬分業の歴史を少し語らなければなりません。医薬分業は考え方としては明治時代当初に生まれたものですが、それから長い間現実のものとはならなかったのです。

きっちりとした医薬分業がされ、調剤薬局で薬剤師が調剤をし始めたのは戦後のことです。現在の形に落ち着くまでに、医師会が調剤業務の例外を多数設定していました。そうして医薬分業体制やその制度を有名無実のものとしようとしていたのです。

医師会の利権問題や政治への影響力を語るとキリがないので控えます。ただ、そういったものが絡み、医師法で例外が多数設定されているのです。そのため、その例外を満たす場合であれば医師が自ら調剤をすることができるようになっています。

医師法の例外規定を見てみよう

医師法で定められている例外規定は第8号まであります。そのまま引用するとわかりづらいところもあるので、細かく噛み砕いて説明しましょう。まず第1号の内容についてです。

患者に対して暗示をかけようとしている場合、処方箋を発行すると暗示がうまくかからない場合があります。患者の心理的には医師からの薬のほうが安心する場合もありますし、段階を踏んでいくと暗示というのはうまくかかりません。

そういう場合には例外として医師が調剤・投与ができるとしています。

2号は、処方箋を交付することが治療の予後、患者に不安を与えて治療が困難になる場合です。これは先述したとおり、患者の心理に寄り添っての例外処置となっています。

3号は病状が短時間で変化してしまう場合、それに即対応しなければならないため、例外として医師の調剤を認めているというものです。4号は診断や治療法が決定していない場合。5号は応急処置として薬剤投与をする場合です。

6号は安静にしていなければならない患者に対して、他の人が薬剤の交付を受けることができない場合が例外だとしています。7号では覚せい剤を投与する場合は例外だとし、8号では薬剤師がいない船などにおいて薬剤を投与する場合は例外だとしているのです。

基本的には分業され、調剤は薬剤師が行う

医師法による例外規定などがありますが、基本的には調剤は薬剤師が行うことになっています。即応して薬剤を投与しなければならない場合でも薬剤師が対応して、調剤を行うのが基本です。薬剤師の配置義務によって、院外処方を行っている病院でも薬剤師がいます。

そのため、現在では医師の調剤・投与は以前よりは行われなくなりました。医師も薬剤師も忘れてはならないのが、「調剤」は薬剤師の専権事項であるという前提です。