「薬剤師が褥瘡の患者さんのためにできることって何?」今回はそんな疑問にお答えするために、病院の褥瘡管理チームで働く薬剤師にスポットを当て、その仕事内容について解説していきたいと思います。

褥瘡管理チームとは

褥瘡(じょくそう)とはいわゆる床ずれのことで、ベッドや車いすなどで長期間同じ体勢でいることで、接触部分が血行不良となり、周辺組織に壊死が起こる病態を指します。

褥瘡管理チームは医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などからなり、褥瘡の予防や治療に取り組むことを目的として結成されています。

病院では寝たきりや車いすなどの患者さんで褥瘡が大きな問題となるため、職種の垣根を超えた医療チームが力を合わせてケアに当たる必要があります。

チームのスタッフが各自の専門知識や技術を駆使して褥瘡管理に当たることで、患者さんのQOLが向上するのはもちろんのこと、入院期間も短縮されるため、経済的な負担の軽減も期待できます。

褥瘡管理サポートチームにおける薬剤師の業務

褥瘡管理は主に予防と治療からなりますが、治療の中心は軟膏などの外用薬の塗布であるため、薬剤師のメインの活躍の場は外用療法のサポートになります。

以下、これらについて解説していきます。

外用薬の選択・混合などに関する医師への情報提供

褥瘡に用いる外用薬には殺菌作用をもつユーパスタコーワ軟膏、局所収斂作用をもつ亜鉛華単軟膏、抗炎症作用を持つアズノール軟膏など様々な種類があり、各薬剤の作用を考慮しながら適切に使い分けなければなりません。

また、外用薬選択の際には基剤の使い分けが非常に重要となります(基剤とは軟膏を製造するときに使う賦形剤のことで、白色ワセリン、親水ワセリン、マクロゴールなど様々な種類があります)。

外用薬の基剤は、患部の滲出液を吸収するタイプと、患部に潤いを与える保湿タイプがあり、患部の状態に合わせて正しい基剤を用いないとかえって褥瘡を悪化させることにもなりかねません。

ところが、医学部では基剤について教わる機会がほとんどないため、基剤の使い分けについて正しい知識をもつ医師が少ないのが現状です。

このため、患者さんの病態に適さない基剤の外用薬が処方され、思うような治療効果が得られないといったことがしばしば起こり得ます。

このような時に、専門知識を持つ薬剤師が医師に正しい基剤の選び方をアドバイスすることで、治療の適正化が図られ、患者さんのQOLの向上に大いに貢献することができるのです。

患者さん・家族に対する外用薬物療法のサポート

適切な外用薬が処方されたとしても、正しい使い方をしなければ十分な治療効果を得ることはできません。

外用薬は内服薬と違い、使用者の技量により効果に大きな差が出ると言われているため、正しい使用法の指導が不可欠です。

入院中は看護師が塗布してくれるかもしれませんが、退院後の在宅医療のことも考慮すると、患者さんやご家族に対して正しい外用薬の使い方を指導することは薬剤師の重要な役割と言えます。

具体的には、外用薬の塗布量、範囲、回数、順序などについて患者さんやご家族に分かりやすく説明します。

特に使用量については使う人の判断によって差が出やすいので、「軟膏なら大豆1粒の大きさ、ローションなら1円玉の大きさの量で手の平2枚分の面積に塗布できますよ」などと分かりやすく説明してあげることが大切です。

また、「軟膏を塗るときはゴシゴシこするのではなくやさしく広げるようしてくださいね」と伝えることで、皮膚の刺激をやわらげ必要以上に薬が吸収されることを防ぐことができるため、副作用の予防にも貢献できます。

副作用・相互作用・重複投与のモニタリング

薬剤師がチーム内で果たすべき重要な役割の一つに副作用のモニタリングがあります。褥瘡治療は外用薬が中心となりますが、外用薬使用時にも副作用の発現には十分注意する必要があります。

例えばポピドンヨードが含まれるユーパスタ軟膏では、ヨードの作用によりヨードアレルギー、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などが生じる場合があります。また、ステロイドの長期使用時には皮膚感染症などが問題となります。

薬剤師は回診時に患者さんの容態を詳細に観察し、体調変化はないか、ひどい痛みやかゆみがないかなどをインタビューしながら副作用の早期発見を目指します。

また、ほとんどの患者さんは褥瘡治療薬以外の薬も服用しています。

薬剤師はこれらの薬を一元管理握し、同じ薬効をもつ薬が重複して処方されていないか、複数の薬間での相互作用はないかなどを入念に検討し、問題があれば医師に報告して処方薬の変更を提案します。

定例会議・勉強会への参加

病院では褥瘡管理チームに属するスタッフの知識や技術の向上を目的として、定期的に会議や勉強会を開催するのが通例となっています。

チームに所属する薬剤師はこれらの会合に出席し、薬剤師の眼から見た患者さんの病態や薬物治療の経過、問題点、改善すべき点などを報告・提案し、他職種との意見交換をします。

また、症例検討会では個々の患者の病態について詳細に検討した結果をパワーポイントで発表することもあります。

これらは外用薬の正しい使用法などをチーム内のスタッフに周知徹底させる良い機会でもあり、薬剤師の職能を大いに発揮できる場と言えます。

また、医師や看護師などの他職種から褥瘡管理に関する専門的な知識を吸収したり、指導を受けたりできる大変貴重なチャンスでもあり、スキルアップにも大いに役立つでしょう。

まとめ

褥瘡管理チームでは通常は医師や看護師が主導的な役割を果たしており、現時点では薬剤師の存在感はそれほど大きいものではありません。

しかし本記事で見てきたとおり、褥瘡の薬物治療には正しい薬学的知識が不可欠であり、薬剤師に期待される側面は大きいと言えます。

褥瘡管理を通じて一歩踏み込んだ外用療法を実践されたい方は、ぜひチームの一員として活躍の場を広げて行っていただきたいと思います。