チーム医療推進の流れの中で、薬剤師も積極的に薬物療法に参加することが求められていますが、病院薬剤師による薬物療法サポートの対象は入院患者さんだけではありません。
今回は、最近注目されつつある外来患者さんを対象とした指導業務、「薬剤師外来」について解説したいと思います。
薬剤師外来とは
薬剤師外来とは、主にハイリスク薬による薬物療法を行っている外来患者さんを対象として、病院薬剤師が服薬指導や薬剤管理指導を行う制度のことです。
通常、外来患者さんでは院外処方せんが発行されることが多いため、病院薬剤師が薬物療法に関わる機会は少ないと言えます。
しかし、ワルファリンや抗がん剤などのリスクの高い薬を服用している外来患者さんでは、薬剤師の介入による治療改善効果が大きいと考えられています。
こうした事情を背景として、最近は、薬剤師外来を設置する病院が増えつつあります。
薬剤師外来の具体的な業務内容
それでは、薬剤師外来では具体的にどのような業務を行うのでしょうか。以下、代表的な例を挙げながら見ていきたいと思います。
ワルファリン服用患者のモニタリング
抗凝固薬のワルファリンは服薬コントロールが難しい薬の代表です。治療域が狭いため用量の調節が難しく、相互作用を起こす薬剤や食品が多数あるなどの理由から入念な服薬モニタリングが欠かせません。
ワルファリンによる血液凝固コントロールが不良になると、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患を起こすリスクが高まるため、本来ならば医師が時間をかけて患者さんの服薬状況をモニタリングする必要があります。
しかし、病院の勤務医は非常に多忙であり、外来患者さん一人ひとりに十分な時間を割くことができないのが現状です。
そこで、医師に代わって薬剤師外来を活用することで、時間をかけたきめ細かい指導が可能となり、より効果的な薬物療法が実現できるのです。
薬剤師による外来指導は、通常、医師の依頼によりスタートします。依頼を受けた薬剤師は、患者さんと相談して指導日時を決定します。
また、指導に先立って患者さんのカルテを参照し、疾患名、ワルファリンの投与量、投与期間、PT-INRの現在値と目標値、併用薬、副作用発現状況など基本的な情報を入手しておきます。
※PT-INRとは「プロトロンビン時間国際標準比」を意味し、「血液のサラサラ度合い」を示す指標です。これにより、ワルファリンの効き目を評価します。
当日は患者さんやご家族を対象に、通常、30~60分ほど時間をかけて外来指導を行います。
具体的には、患者さんの食生活を確認するために過去1週間の食事メニューを用紙に書きだしてもらったり、患者さんの腕を触りながら皮下出血の有無を確認したりします。
このほかワルファリンの飲み忘れの有無、サプリメント摂取状況、他院での処方薬、市販薬服用の有無などについて聞き取りをしたうえで、正しい服薬の仕方を指導します。
指導終了後は、結果を報告書にまとめて医師に提出します。これにより、医師が患者さんの服用状況を正確に把握でき、次回診察時の処方内容に反映させることができるのです。
がん化学療法のサポート
最近のがん治療では従来型の抗がん剤に加えて、新しく登場した分子標的薬や免疫治療剤を用いる機会が増えていますが、これにより予期せぬ副作用が生じる可能性も高まっています。
一般に外来患者さんは入院患者さんと違って医療スタッフが常にそばについているわけではありません。
このため、患者さん自身が治療に対する正しい知識を身に着け、副作用が生じた際も素早く対応することが求められます。
こうしたニーズに応えるために、病院ではがん化学療法向けの薬剤師外来を設置して外来患者さんをサポートする動きが広まりつつあります。
外来指導の流れとしては、まず医師が患者さんに化学療法の治療方針を説明したのちに、薬剤師に指導を依頼します。
依頼を受けた薬剤師は担当する患者さんの情報を細かく収集します。
具体的には、レジメン、投与量、検査値、基礎疾患など確認し、化学療法が適切に行われているかどうかを評価します。
また、他院で処方されている薬剤についてもチェックし、飲み合わせの適否を確認します。
患者さんとの初回の面談では、化学療法のスケジュールや起こりうる有害事象について丁寧に説明します。
有害事象が生じたときのセルフケアの仕方についても指導し、生活習慣や自宅に置いてある常備薬などについても聞き取りをします。
2回目以降の面談では、有害事象の有無、服薬コンプライアンスを中心に聞き取りをし、重大な有害事象が認められた場合は、直ちに医師に報告して処方変更などを提案します。
化学療法を受けられている患者さんはご自分の病気に対してとてもナーバスになっている方が多くいるため、面談時には患者さんのプライバシーに対する配慮も欠かせません。
面談には個室や防音型のミーティングルームを使用するなどしてプライバシー保護にも細心の注意を払います。
まとめ
病院薬剤師による薬剤師外来は現時点ではそれほど普及していません。
しかし、多くの病院薬剤師による地道な努力により、その成果は徐々に認知されつつあります。
例えば、薬剤師外来をいち早く導入した国立がん研究センターでは、薬剤師外来の結果を踏まえた医師への処方提案の90%以上が採用されているという事例が報告されています。
また、薬剤師外来指導によりワルファリン服用患者のPT-INRの目標値到達率が33%から56%に改善したというデータも存在します。
さらに、薬剤師外来により患者さんの病気に対する理解が深まり、より積極的に治療に臨むようになったと言う声も聞かれています。
平成26年度の診療報酬改定では「がん患者指導管理料3」の項目が新たに設けられ、外来でがん化学療法を受けている患者さんを対象とした薬剤師の指導業務が診療報酬として評価されるようになったことも制度普及への追い風となっています。
このように、医師と患者さんとの橋渡し役となる薬剤師外来は、治療における陰の立役者のような存在であり、今後もさらなる制度の発展が期待されています。