人は必ずミスをします。

しかし調剤薬局での薬剤師ミスは、患者さんに重大な不利益をもたらす可能性があります。

もちろん複数人で監査を行うことにより、また一人薬剤師であっても患者さんと一緒に監査することで、ある程度のミスは発見することはできます。

しかし工夫や努力により事前回避できるミスもあります。

そこで、調剤薬局でありがちなミスとその回避方法について検討していきたいと思います。

調剤のピッキングミスの防ぎ方

日々の調剤で、誰もが経験するのがピッキングミスだと思います。

複数の規格・剤形がある薬剤、名称類似薬剤、外観類似の薬剤(包装の類似、薬剤自体の類似)のピッキングミスは常に起こり得ます。

こういったピッキングミスを起こしやすい薬剤は、薬剤の棚に大きな注意ラベルを貼ったり、ラベルを退けなければピッキングできないようにすることで注意を喚起することができます。

さらにピッキング時に声出し指差し確認することも有効です。そして規格を確認しながら処方せんのコピーにチェックを入れるとセルフチェックができます。

また、可能ならば取り違えを起こしにくい配置-例えば類似薬剤をあえて並べておき注意を喚起するなど-をするのも良いでしょう。ピッキングの監査システムの導入も有効です。

なお、漢方薬や注射剤は、処方せんと薬剤を並べて一文字ずつ声に出して確認することでミスを減らすことができます。

調剤の計数ミスの防ぎ方

計数ミスも頻繁に起きるミスです。

錠剤に関しては、1シート10錠の薬剤だけではなく、ウイークリーシートや20錠、あるいは12錠で1シートというものもあります。

散剤のヒート品は1シートの包数が2包だったり3包だったりします。PL配合顆粒のように4包のものもあります。更にこれらが何枚かで束ねられていることが多いのですが、その枚数は薬剤ごとにバラバラです。

同様に貼付剤は7枚あるいは10枚で1束になっているものが多く、統一されていません。一つの薬剤でも1箱の包装単位によって束ねられている枚数が違うこともあります(フランドルテープなど)。

目薬や塗り薬は処方せん上に記載される単位がmL・g・本・瓶などで混乱することがあります。このような現状で、計数ミスが起きないほうが不思議です。

だからといってミスが許されるわけではありません。

計数ミスを防ぐには、まず処方せんにピッキングすべき数量を記入し、余裕があればピッキングした内容をメモするといいでしょう(例:4包✕5枚+1包=21包)。

また散剤や貼付剤で帯がついているものは、中身を抜いた場合には必ず帯を外すというルールを徹底すると良いでしょう。

散剤・水剤に関するミスの防ぎ方

散剤・水剤のミスとしてあげられるのは、瓶の取り間違い・過量投与や過少投与・賦形ミス・計算間違いによる計量ミスなどがあります。

また散剤に特有のミスとして充填ミスもあります。

まず取り間違いは、瓶の配置を決めることである程度防ぐことができます。また、可能ならば1剤1規格とすると良いでしょう。計量時に声出し確認するのも有効です。

散剤については、監査システムがある場合にはスキャン忘れがないように気をつけましょう。

なお、散剤で充填が必要なものに関しては監査システムを利用したり、他の人にチェックしてもらってから充填するようにしましょう。

過量投与や過少投与を防ぐには、常用量や体重あたりの用量を瓶や棚に貼っておくといいでしょう。一覧表を置いている薬局もありますが、手元にないと確認しないものです。

賦形については薬局内のルールをしっかり統一しましょう。

計算ミスについては、処方せんのコピーに計量する量を記録して確認できるようにしておくといいでしょう。

記録がないと、監査時に何が間違っているのかわからなくなる可能性があります。計算が得意であっても、数字を残すことは大切です。

なお錠剤の粉砕や脱カプセルに際しては、薬剤の安定性を確認しなくてはなりません。粉砕の可否に関する本もありますが、不明ならば添付文書に記載されているメーカー連絡先に確認しましょう。

もちろん監査時には総量チェック・異物混入チェック・散剤については均等に分包されているか否かのチェックは必須です。

処方せん内容に関するミスの防ぎ方

処方せんの内容をそのまま調剤するだけなら薬剤師でなくてもできるでしょう。しかし薬剤師ならば、処方内容をチェックしなければなりません。

例えば、安全域が狭い抗不整脈薬・抗腫瘍薬・ジゴキシン・リチウム・テオフィリン・ワルファリンなどが処方されている場合には、慣れていても常用量に注意してチェックしましょう。

また、休薬が必要な薬剤に関しては服用期間と休薬期間をしっかり確認する必要があります。不明ならば疑義照会をします。

薬歴には服用期間と休薬期間を具体的に記入(○月☓日~○月△日まで服用など)し、薬剤師間で情報を共有するようにしましょう。

その他、併用薬を医師に言わない患者さんも少なからずいらっしゃいます。そのため併用禁忌薬が処方される可能性もあります。患者さんに重大な不利益をもたらさないためにも併用薬のチェックは必要です。

レセコン入力ミスの防ぎ方

レセコン入力は事務さんが担当という薬局も多いと思います。しかし入力ミスがあることもあります。

これは他人事ではありません。

入力された内容が薬袋に印字される場合は、用量用法を薬剤師が正しく説明していても患者さんが飲み間違える可能性があります。また入力ミスがあると患者さんの負担金が変わることもあります。

そして保険薬剤師として働く以上、調剤料の点数算定方法やその解釈法・保険請求までの全ての責任を薬剤師が負うことになります。これはすなわち、入力ミスであっても責任を追うのは薬剤師ということなのです。

入力ミスを見つけるには、調剤録のチェックが必須です。むしろ自家製剤加算や計量混合加算の要否などは、実際に調剤している薬剤師がチェックするほうが有効です。

なお、保険請求についてしっかり勉強したい場合には、調剤事務の資格が取れる通信講座の受講をおすすめします。必ずしも資格を取る必要はありません。教科書やDVDをみるだけで非常に勉強になります。

患者さんとのコミュニケーションに伴うミスの防ぎ方

調剤薬局では患者さんとのコミュニケーションが重要です。しかし対応を間違えるとクレームに発展します。対応ミスもミスの一つと言えるでしょう。

待ち時間について

投薬まで時間のかかる患者さんに一言も説明なく投薬順番を変更すれば、患者さんは不満を感じます。

そのような時は「声がけ」をするだけで患者さんの不満はだいぶ軽減されます。時間がかかる理由・どの程度時間がかかるかなどを伝えると、多くの患者さんは理解を示してくれます。

また、忙しい時間帯は患者さんをできるだけ待たせない工夫も必要です。

調剤用に処方せんのコピーをピッキング用のカゴなどに入れる薬局は多いと思いますが、処方の内容(ピッキングのみ・散剤水剤軟膏の計量混合あり・一包化など)によってカゴを色分けするとスムーズに作業がすすめられます。

また、何色のカゴが多いかがわかれば、おおよその待ち時間も伝えやすくなります。

服薬指導中の会話について

患者さんの中には自分の病状を他の人に知られたくない方も多くいます。

それを「仕事だから」と何度も大きな声で患者さんに症状や病名などを確認すると、クレームにつながります。

ではどのように患者さんとコミュニケーションを取ればよいのでしょう?

例えばデリケートな病気の場合、薬情を使って該当部分を指差しながら「今回はこのような症状で受診ということで間違いないでしょうか?」といった感じで確認する事ができます。

何度か来局している方ならば「症状は悪化していませんか?発作は起きていませんか?」と言った具合に病名を挙げなくても聞くこともできます。

また、言い方にも注意が必要です。例えば高圧的な態度で服薬指導されたら患者さんはいい気分がしません。

また専門用語を並べたり、薬歴を書くためにあれこれ聞くのも患者さんにとっては嫌なものです。

患者さんの立場に立って、不快感を感じさせない服薬指導を目指しましょう。周りに服薬指導の上手な薬剤師がいるのなら、その人のスタイルを真似するのも良いと思います。

調剤薬局以外に転職すればミスをしなくなる可能性もある

上記のような工夫や努力をしても、ミスをゼロにすることはできません。

ミスが起きてしまったら、患者さんへの対応はもちろんですが薬局内・あるいは会社全体で情報を共有しましょう。

情報共有に有効なのが、インシデントノートの作成や過誤報告書の作成です。これは、インシデントや過誤の内容を客観的に見直し、注意喚起してミスを減らすことを目的とします。

ここで大切なのは、決して責任追及をしないことです。あくまで主眼はミスを減らすことだからです。

しかし、「やはり自分は調剤薬局の仕事に向いていないかもしれない」あるいは「薬局・会社の教育・管理体制に問題があるのかもしれない」と悩む方もいるでしょう。

そういった場合には、転職という選択肢もあります。

「自分の調剤した薬剤を一番大事な人に出すことができますか?」という問いかけに「はい」と即答できないならば、調剤薬局以外の道を考えてもいいと思いますよ。