薬剤師の中には資格取得後、研究や大学院等に進学する人、製薬会社のMRになる人、薬剤師国家試験対策予備校の講師になる人など病院や調剤薬局での実務経験の積めない職種に就く人も多くいます。それ以外で資格を取ったまま、全く他の仕事をする人も多くいます。
ハローワークなどで求人情報を閲覧していると、他の職種に比べて薬剤師の給料の高さやパートの時給の高さが目に付きます。薬学部は6年制になって大学の数も増えていますが、それでもまだ薬剤師の数は飽和状態にならず、調剤薬局の乱立などからむしろ人手不足のところが多いです。
不景気が叫ばれるこのご時世、卒業後他の仕事をしている人でも、せっかく薬剤師の資格をもっているのだからこれを生かして効率よく稼ごうと思う人もいるかと思いますが、そこで気になるのは実務経験の有無です。
今回は、資格取得後すぐに結婚して家庭に入り、実務経験の無いまま十数年資格を寝かせていた主婦の方についてご紹介します。
薬品の商品名や一般名もゼロからのスタート
大学で勉強を頑張って、やっとの思いで薬剤師の資格を取得したにも関わらずすぐに結婚して専業主婦になり、これまでの十数年全く仕事をしてこなかったAさんが、私の働いていた調剤薬局にパートとして就職してきました。今までこの調剤薬局で一番年下の実務経験も一番少ない私より、年齢は10歳以上上です。
就職して、私が薬局のことを色々教える教育係的な仕事を管理薬剤師から頼まれました。確かに長年働いてきた先輩たちからすると、最初は何がわからないのかわからない、何を教えればいいのか困惑するようです。しかし私にとっては年上の新人さん。どう接すればよいのか、そこから困惑していました。
Aさんはとても雰囲気が優しい人で、色々素直に受け入れてくださり患者さんからの評価も良かったのですが、10年以上のブランクは私の想像していた以上に高い壁でした。
- 私が大学時代に当たり前のように学んできたことを、Aさんの大学時代には学んでいない。
- 新しい作用機序は全く知らない。
- 薬の分類も私が学んだものとは違う。
これらの違いから、Aさんが持っている大学時代の教科書や参考書で役に立つものが少なく、最新の辞書等を見てもわからないと言われました。そこで私が初めて就職したときを思い出し、まず初めは調剤を通して大学時代に触れる機会の少なかった商品名を覚えてもらうことにしました。商品名に慣れるだけでも仕事がスムーズになるかと思いましたが、Aさんは大学時代に学んだ一般名ももうほとんど記憶にない状態でした。
最近はジェネリック医薬品も多く、それらの名称は『一般名+製薬会社名』など少しずつ統一されているので、新卒の子は『一般名に強い=ジェネリックならわかりやすい』というメリットがありますが、それがAさんには適用できませんでした。
やる気をなくした年上の人を励ます方法
もう本当にゼロからのスタートで、Aさんも見事にやる気をなくしてしまいました。「若いころに比べると記憶力も落ちているから、もう無理かもしれない。みんなに迷惑をかけるだけなら働かない方がいいのかな。」などマイナスのことばかりつぶやくようになってしまいました。
しかし、初めはみんな覚える事ばかりです。慣れることで少しずつ仕事も楽しくなるし、すべては慣れだと開き直るように勧めました。薬学部時代も何浪も浪人時代を経験して入学してきた人や、他の仕事をしていたけれど、薬剤師になろうと思い入学してきた人など年齢も様々でした。その人たちもしっかりと勉強して資格を取得して働いているので、Aさんも記憶力とか年齢のせいにしないで頑張りましょう!と若干無理のある励ましをし続けていくことで、少しずつ慣れてきて仕事が楽しく感じるようになってくれました。
『実務経験なし可』の求人はたくさん存在しますが、実際に資格はあっても実務経験の無い人からすると就職するのも不安で迷って、就職してからも不安ばかりなのだとAさんを見て感じることができました。
医薬品の分野は常に新しいものが開発され商品化されていきます。仕事をしていない間も自分の知識を維持するのはなかなか難しいと思いますが、私も産休育休などで長期間仕事を離れた際に、ゼロからのスタートにならないように勉強しておく必要があるなと思いました。