私は新卒から数年間は調剤薬局に勤務していました。しかし叔父の肺がんによる死をきっかけに緩和ケア、ホスピスと言う分野に興味を持ち、それらを勉強できる環境での仕事に従事したいと考えるようになりました。

そこで、ホスピス緩和ケア病棟を有する病院の存在を知り、思い切って転職することにしました。

ホスピス緩和ケア病棟とは

主にがんによる痛みや、それ以外にも吐き気、食欲不振、不眠、息苦しさ、精神的な苦痛等の体の諸症状のつらさを緩和することを目的とし、それを病院スタッフの連携により支援することを主たる目的としており、病院スタッフは患者さんと共に、そのご家族の精神的な不安や体力的な負担もできる限りケアするように心がけている病棟のことです。

病気やケガの際に入院する一般病棟のように治療が目的ではありません。末期状態で抗がん剤による治療がもう不可能なくらい進行している患者さんや、それらの治療を希望しない患者さんが多くいます。残った人生最後の時間を穏やかに過ごしたいと望む患者さんや、それを希望されるご家族の方が多いです。

そのため、ホスピス緩和ケア病棟内での処方は抗がん剤当の治療ではなく、痛みの緩和を目的としたモルヒネなど麻薬系鎮痛薬がメインとなります。

ホスピス緩和ケア病棟における薬剤師は蚊帳の外?

最初に書いたように、私は緩和ケア病棟での仕事を希望していました。実際に苦しんでいる患者さんに対してどのように苦痛を取り除いているのか、また薬剤師としてどのような事ができるのかをしっかりと勉強したいと考えていたのですが、就職して気づいたことは、薬剤師は完全に蚊帳の外だということです。

緩和ケア病棟においては医師と看護師がメインです。薬剤師は病院内の調剤室で麻薬を調剤して病棟に届けるのみ。患者さんと接する機会も全く得ることができませんでした。毎日のように亡くなる患者さんがいますが、それを知るのは処方箋が止まった時や、病棟ごとに毎日払い出している注射等の点滴カートからその患者さんの名前が消えていた時です。この現実を目の当たりにしたときに、医療人として薬剤師の立場はまだまだ医師や看護師に比べて患者さんとの距離が遠いなと実感しました。

薬剤師である私が緩和ケア病棟に行き、患者さんと話しをすることで何ができるのか。癒しが与えられるのか。麻薬系鎮痛薬による副作用に関する情報を与える必要があるのか。患者さんが副作用で苦しんでいたら結局は医師や看護師に伝えることでしか対応できない。がんで人生に絶望的になっている患者さんもいる中で、自分に何ができるのかを模索し続けていました。しかし、自分の無力さを痛感するばかりでした。

緩和ケアに転職したい薬剤師へのアドバイス

緩和ケア病棟を有する病院は日本国内にもまだそれほど多くありません。大学病院などの大きな病院の中にもありますが、本当に末期で治療ができなくなった患者さんは大学病院で長期入院はせず、系列の小さな病院に転院します。そのため、本当にホスピス緩和ケアの勉強がしたいのであれば大きな病院で働くことはおすすめできません。

しかし、小さい病院だと薬剤師による服薬指導などの病棟業務がまだまだ盛んではない為、今回の私のように薬剤師はただの調剤マシーンになってしまいます。

緩和薬物療法認定薬剤師の認定制度もあり、私も初めはこの認定の取得を目標にしていました。しかし、その認定の取得には論文提出と発表が必要となりますが、病棟業務が盛んでない病院だと論文を書くだけの実績が積めません。緩和ケア病棟における薬剤師の仕事内容や、病棟に薬剤師も積極的に行ける環境なのかをしっかりと事前に情報収集する必要があったなと後悔するばかりで、この病院で働いていても何も緩和ケアの勉強ができませんでした。

最近は病院における緩和ケアだけではなく、在宅で緩和ケアを行う患者さんも増えているようです。病院では完全に蚊帳の外だったけれど、在宅で緩和ケアに従事している薬剤師の友人によると、薬剤師もしっかりと服薬指導を通して患者さんと話ができるようです。まだ薬剤師の仕事の幅が狭く、他の医療従事者の方たちの理解も得ることは出来ていないけれど、これから少しずつ薬剤師と患者さんとの距離が縮まるといいなと思いました。